11月7日

起床。菊の頭が重く倒れていたので抜き取って捨てた。それより大分前に買った花は元気である。何という名前の花か忘れた。百貨店のショーウィンドウはまだクリスマスにならない。動く歩道脇の広告は永瀬廉から変わっていた。通勤電車で今更「虞美人草」を読んでいる。古典を読むには遅すぎる今更だと思うけど、図らずも登場人物は自分と同世代で、同じような問題に直面しているからおもしろい。通勤に時間を取られるのに嫌悪感を持っていたけれど、徒歩で会社に向かっていた頃よりよっぽど有意義な時間の使い方をしている。

離婚届のためだけに新姓の判子を買うのは癪だけどおもしろくて気に入っている。自分を自分のみで保たせること、自分と自分のみで生きていくことが苦しくて寂しくて耐えきれないあまり、自分の一部を誰かや何かに委ねようとして結婚を試みた。それと引き換えに課せられる制限に耐えきれず、強大な力にも阻まれたので離婚しようとしている。孤独と不安にまた負けそうになる。ねじ曲げた理論で外部に自分を委ねようとしている。正当に背負える人間はごく限られていて、それ以外に託すべきではない。というか自分はそういう形のものが欲しいんだったか。それで失敗したんじゃないのか。ぐるぐる考えてどこにも行けないことに直面する度に死にたくなる。あっちもこっちももう考え尽くした、ことにしたくて全部を諦めたくなる。生きていく限り逃げ道がないことを知って絶望する。絶望を分かち合う相手を求めてしまう。同じことの繰り返しになる。自分が生きるために大小問わず命と一緒に生活したいなどと思う。エゴに悲しくなる。

仕事を辞めたい。人が幸せなときに必要とされたくてこの仕事を選んだけれど、今は他人の幸せを目の前で見ているのがつらい。優しくて私の考えを理解してくれて甘えても怒らない人間ばかりが近くにいる環境もつらい。今までのことも今後のことも全部放り投げて東京に逃げてそのまま帰ってきたくない。実行できない。度胸もないしお金もないし寂しいし面倒だし括った腹に反するから。他人と生きようとすることで可能性を手にするのに心が擦り切れる。1時間に3回は悲しくなる。未来は永遠に見えない。1%に100%賭けていく未来にも選択にも行動にも覚悟にも少しも揺るぎはないけれど、最後は手元に何も残らないことまで理解している。理解した上で、人事を尽くして天命を待つ。だからつまり心の底から諦めている。今日は。1人で生きようとすると途方に暮れる。孤独になる。死にたくなる。死にたくなるよりはマシだから諦めて誰かのそばにいようとする。叶うことはない。叶うことはないからどちらにせよ永遠に孤独である。

美しいことほど書けない。とっとと家に帰ってお風呂に入ってご飯を食べて心を立て直したいのに愛しい家が遠い。一駅一駅停車する度にイライラする。立ち上がるのもしんどくて特急への乗り換えを諦めた。通勤に時間を取られるのは良いこともあるが悪いこともある。都会の景色を見ると心が穏やかになる。人間の生活の匂いが薄い。何も食べずに寝ようと思ったけどお風呂に入ると少し元気が出て、冷蔵庫の残り物を食べるとさらに元気が出る。単純にもとに戻れるのにどうして毎回絶望するのか。学ばない人間。23時前には寝た。